哺乳類 その2

「哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 驚異の器官がうまれるまで」 酒井仙吉著(講談社ブルーバックス)の感想の続きです。その1はここ
この本の9章は乳腺について。10章は乳の制御について書かれています。
牛と人間は構造が違うにも書いたとおり、牛と人間の乳頭の形は違うのですが、英語では言い方にも違いがあります。
牛はteat 人間はnipple なのだそうです。牛は1日2回の授乳なのでたくさん飲めるように貯めて置ける場所があるそうです。
また母乳では空気を飲む事が稀であり、子鯨が海水を飲まないのもそのおかげなんだそうです!
そして乳房のサイズは牛はためて置ける分大きくなるので乳の量に関係するが、人間は関係なく別の調節になっているのだそうです。印象的なところをひとつ引用します。

ヒトで珍しいことは一~五ヵ月齢で1日あたりの母乳量は700-800gとあまり変化しないことである

人工乳の缶には月齢によって飲む量が増えていくような記載があるため、「3ヶ月にもなれば母乳が足りなくなる」とか「男の子はだんだん母乳だけでは足りなくなっていく」という正しさに疑問がある言い伝えが今でも残っているのは残念なことです。
人工乳の缶には、上記に引用した700g-800gを超える量が1日の目安として掲載されています。これは異種タンパクである人工乳よりも母乳のほうが効率よく吸収利用できるためでもあるとも言われています。
母乳を飲む量に関しては、Breastfeeding and Human Lactation 3rd.edition の100ページに図があります。
ここでも書いたように、生後初日の赤ちゃんの胃のサイズはスプーン1杯ほどなのですが、胃のサイズは数日で広がり、お母さんの産生量も増えてきます。生後5日までに1日に約500mlになり、その後は6ヵ月で約800mlとゆるやかに増えていくとあります。図でみると、2-6ヵ月では1ヵ月までと比べると大して違いがないと思うほどのゆるやかさです。もちろん個人差が大きく、550mlから1150mlの幅があると記載されています。
本に戻ります。
乳腺は妊娠すると発達しはじめ、授乳が終わると乳腺細胞は死んでなくなるのだそうです。細胞や乳糖、乳たんぱくも再吸収されてなくなります。太い乳管のみが残り、次回の出産で再利用されますが、そのほかの組織はまた改めて作るんだそうです。
となると、時々聞かれる「卒乳後に残った母乳が将来悪影響を及ぼす」という言い伝えは根拠が薄そうだとsariは感じました。
そして、乳を作り出すホルモンについては、いままでsariの知らない言葉が出てきました。それは糖質コルチコイド、です。
これはプロラクチン受容体遺伝子を発現させるのだそうで、陣痛などストレス時に出るものなのだそうです。いままで、プロラクチンが重要と書きましたが、プロラクチンがたくさんあってもそれを受け取る【受容体】が少ないと乳量に影響するのだそうです。ちなみにBreastfeeding and Human Lactation 3rd.editionの77ページにも記載があります。
以前に読んだ牛の教科書にあった乳腺細胞が扁平状(つまり乳がたまって張っている状態)だと乳の量が減る、がよくわからなかったのですが、そのことについてマウスですが記載がありました。乳房に乳がたまった状態が続くと(組織が扁平)プロラクチン受容体が急速に減少、密度が低くなり、乳量が減る。哺乳させて乳を除くと細胞が円柱状になりプロラクチン受容体の数が元に戻り、密度が回復、乳量が増える、のだそうです。マウスの話ですが。
一部だけ紹介しているので、ぜひ本を読むことをおすすめします。
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書籍

Posted by sari