「させる」「選んでもらう」

こういう科学的根拠のブログを書いていると、
「でも、科学はお母さんにとって酷ではないかしら?」
という声を聞くことがあります。よくあるのが
「お母さんは出産で疲れているのだから、赤ちゃんを預かって休ませてあげるのが”やさしい”のよ」
ですね。
この文章にある
(休ま)せてあげる
について考えたいと思います。
つまり、「させる」ことですね。
人になにかを「させる」ということはなかなか難しいことです。
子どもは授業で、読まされ、書かされ、話し合いさせられながら学んでいくのですが、大人はそう簡単に「させられ」ません。
そもそも、その人の意思を考慮せずに「させる」ことがいいことなのかどうか。
思いやりの気持ちから休ませてあげようと思っている方がこれを読んだらがっかりするのではないかと心配もするのですが、でも、その思いやりの先回りが母子にとって本当に役に立つのか、そしてお母さんの自信につながるのか、について考えたいと思います。
「すべき」ことでも書きましたが、少しだけ考え方をチェンジしてみてはどうでしょうか?
どちらも根本はお母さんと赤ちゃんのためを思っているやさしい気持ちから出る行動なのだから、対立関係にはないんです。私は赤ちゃんを預かったりしないわ!と思っている方にも読んでもらえたらうれしいです。
科学的根拠をお話するときに大切なことがあります。それはお母さんが無理強いされること無く情報提供することです。
「生後すぐから頻繁におっぱいを飲ませるとたくさん出るようになるんだから、がんばって」
と言ってしまうと
「私、がんばれません。。。」って言えませんよね。言ってしまったらなんだかお母さんとして自覚がないんじゃないかと思われるような気がしてsariだったら無理。日本人の「耐えてこそ」の美徳も言えなさに拍車をかけます。
最後の「がんばって」はいらないんですよね。がんばっては支援する人の意見だから。励ましというより「させる」言葉としてとらえられるでしょう。
また、情報提供する前に、お母さんの状況をよくわかっていることをお母さんにもわかってもらう=共感する ことも大切です。そうでないと
「もう、私のしんどさをわかってもらえない~。 もう言ってることなんか無視しとこ!」
とか、母乳で育てたいと思っていたお母さんすら挫折して
「母乳母乳ってうるさいのよ!」
という状況にもなりかねません(sariの友人がそうでした)
実はsariは出産のたびに、毎回起き上がると息が普通に出来なくなる、という状態が2日ほど続きます。
寝ているといいのですが、コルセットで胸まで締め上げるとようやく起き上がっても息が出来るという状態でした。
そんな状態で母子同室なんて!と思う方もおられると思うのですが、3番目の子はそれでも生後新生児室に一度も行きませんでした。
ただ、「すぐにひんぱんに飲ませるとよくでるようになる」という体のメカニズム以外に、楽に授乳できる方法を知っていたので乗り越えられたんだと思います。
そういうトラブルやうまくいかない状況を変えるためのアイデアなしに頻繁な授乳をすすめてもお母さんは追い詰められるだけかなあと思うのです。
最近お話したお母さんは、病院でこんな授乳の仕方を教えられたそうです。
「背もたれに寄りかからず、背筋を伸ばして胸をピンと張って、赤ちゃんを胸の高さまで持ち上げ授乳する。」
これでは頻繁に授乳するのはしんどそうですね。1.5Lのペットボトルを2本持ってこの姿勢で10分キープを日に10回とか言われたら、なかなか続かないと思います。でも、そのお母さんは病院で言われたことだから、腰が痛くても肩が痛くても赤ちゃんのためと思ってがんばっておられました。
こういうお母さんには、もっと楽に効果的に授乳するアイデアを提供して、その中から「自分で」楽と感じる方法を見つけるお手伝いが必要なんだと思います。
ここで、「この姿勢にすると楽でしょう」と選択の余地無くひとつだけおすすめすると、お母さんが実際にはちょっと難しいなと思っていても、別の選択をすることが出来なくなります。実質的には「させて」いるんです。
ですので、選択肢を2つくらいあげて、「どっちがよさそう?」と聞けばお母さんは選べますし、自分で選んだことはする気持ちになりますし、自分は尊重されているんだという気持ちにもなります。
させるのではなく、選んでもらうことがいいのだなあと思います。
こんなことを医療関係者にお話したら、質問をもらいました。
でも、はっきりと「こうしたらいいよ」と言えないなんてプロとして失格な気がする、と。
搾乳を例にとると、お母さんが自分で搾れるポイントを探すのを見守って言葉で支援するよりも
「ここですね」と一発でお母さんの乳房の搾れるポイントを触って教えてあげてこそプロじゃないの?と。
あれこれやっているほうがお母さんにとっては負担なのでは?というご質問でした。
このやり方だとどうしても
「助産師さんがやるとうまくいくけど、私には出来ない。うちに帰ったら教えてくれる人がいないから無理」
と考えるお母さんが存在します。sariの周りでは少数ではありません。
「助産師さんはうまくって、私にはできないわ~(^^)」
という言葉は、それはプロの技を賛美しているのか、お母さんの自信のなさのあわられなのか…、どっちなんでしょうね。それとも両方?
最初の話に戻りますと、体がしんどい中よくがんばっていることを認め、その上で科学的に早くから頻繁に効果的に授乳することは母乳育児が軌道に乗るのに役に立つこと。でもしんどい状態を我慢する必要はなく、なにか改善できればもっと楽かもしれないこと、その上でどうしたいか聞き、お母さんの希望にあうアイデアをいくつか提案してみて、気に入ったやり方を取り入れてみて、という風になっていくと母乳育児したいお母さんには助かることだろうなと思います。肩の力も抜けそうです。
話を聞き、情報を提供し、アイデアを提案し、それでも預けたいと希望したら、それはお母さんの選択なので尊重することだろうと思います。最初から話し合いなく、「大変だろうから預かって休ませてあげる」はお母さんの気持ちや意思が入る余地がなさそうですね。
もちろん、入院中に赤ちゃんを預かっても、その後母乳だけで育てられる人はいますが、大変な努力がいる場合も少なくありません。あとから頻繁に授乳したら母乳の量が増えるという情報を聞いて、知識なく預かってもらったことを後悔するお母さんもいます。順調なスタートを切るためにという情報が、誤解が元で広がっていかないのは、sariはひとりの母親として残念なことだなあと思いましたので、長文ですが書いてみました。

授乳中

Posted by sari