多いほどいいってホント?
先月、某テレビ局の情報番組でビタミンDについての番組が放映されたそうです。
最初に母乳育児が広まったからビタミンD(以下VD)不足が増えている、というような流れだったせいか、心配している方が多いようです。ちなみに、番組の最後のほうにはちゃんとフォローがあったそうなのですが、私が話を聞いたお母さんは、その母親(つまり赤ちゃんのおばあちゃん)から番組が始まるとすぐに電話がかかってきて「テレビを見て!」と言われたそうです。
ネットを検索すると同じような話がちらほら見つかるので、テレビの影響力はスゴイ!と感じています。
VDのように母乳に足りない栄養があれば、自分が食べるように心がけたいので、情報はありますか?
という質問があります。その前に何を規準に「足りない」のか考えてみたいと思います。
まず人間の赤ちゃんにとってのスタンダード(標準)は人類の歴史から見て【母乳】であると考えられます。ですが、上の文脈からは、比較する元=スタンダードが「人工乳(ミルク)」になっています。
上記のお母さんの質問は、以下のように変わりそうです。
VDのように母乳に足りない栄養があれば、自分が食べるように心がけたいので、情報はありますか?
↓ 言葉をプラス
人工乳と比べてVDのように母乳により少ない栄養があれば、自分が食べるように心がけたいので、情報はありますか?
↓ スタンダードを言い換え
人工乳には母乳より多くのVDが入っていると聞きます。もし自分がVDの多い食べ物をとることで赤ちゃんへのVDを増やすことが出来るならそうしたいです。なにかそのことについての情報はありますか?
ちなみに、世界で最初に商標登録をうけた人工乳は1867年に開発されました。ネスレが缶いりコンデンスミルクを売り出したのは1866年だそうです(ネスレは日本ではコーヒーやチョコのメーカーですが、世界的には乳児用人工乳を生産販売する大手企業です)。ほんの150年前のことなので、それ以前の人類は母乳、もしくはほかの動物の乳や穀物のおかゆなどの代用品で育ってきたといってよさそうです。このコンデンスミルクもそうですが、代用品は命にかかわることが多かったそうです。
VDについては、適切に日光にあたることで皮膚で作られます。母乳と日光で不足することはないそうです。適切な日光、というのは服を着て帽子をかぶらず週に2時間(母乳育児支援スタンダードより)だそうです。もちろん、日焼け止めを塗らずにです。1日あたり17-18分ですね。お洗濯のときに一緒に外に出るだけでこれくらいの時間はたってしまいそうですね。生後6ヶ月までは日焼け止めは控えめに、そして長く日に当たる場合のみ使う、という情報もあります(The Womanly Art of Breastfeeding 8th ed.)
また、極端な食事制限をしている場合も要注意だそうです。
皮膚の色によっても違うし、生活習慣、住んでいる緯度でも違うそうなので、もっと知りたい方は文献で調べることをおすすめします。
さて、お母さんの質問に話を戻します。
なんだかこの質問は、sariには「人工乳は栄養がそろっていて、母乳には足りない」というように聞こえます。
スタンダードを母乳にすれば、「母乳とくらべて人工乳にVDが多い」のです。
では、多ければ多いほどいいのでしょうか?
なんであれ「栄養的数値は高いほうがいい」というぼんやりとした考えをもっている方は多いかもしれません。
しかし、VDは過剰摂取による中毒があるのだそうです。
脂溶性ビタミン(A、D、E、K)は過剰症になるものがあります。
鉄分も多いほうが安心、というイメージがあるかもしれません。
鉄分に関しては、母乳より人工乳に多く「添加」されています。が、吸収率は母乳のほうがよいのです。そして鉄は多すぎるとラクトフェリンの働きを抑える作用があります。
量も大切だけど、バランスも大切、ということでしょうか。
ビタミンKも「母乳だけでは足りない」といわれます。
こういわれると、母乳で育てないほうがいいのかしら?と悩んでしまいそうです。
これも「母乳をあたえ、さらにVKシロップを飲むことで赤ちゃんの健康リスクを減らすことができます」
という表現だと安心して母乳を与えることが出来そうです。
こういうことがわかってきた科学的進歩はすばらしいですね。
そして、母乳で育てることのメリットについては多くの文献があります。母乳にはまだわかってない栄養素もありますし、栄養素同士の関連でまだわかっていないことも多くあります。ひとつの栄養素だけに着目して「母乳は人工乳より劣っている、母乳に代えて人工乳を飲ませなくては」と考えるよりも、総合的に考えて「母乳をあたえ、さらに必要なものがあれば工夫(日光浴や食事、サプリメントなど)すればよい」と考えるほうが理にかなっているようにsariには思えます。
そしてそのほうが赤ちゃんの健康リスクを減らすことができます。
科学の進歩は人工乳で育つ赤ちゃんにも、母乳で育つ赤ちゃんにも、貢献しているのです。
参考文献:
The Womanly Art of Breastfeeding 8th ed La Leche League International
母乳育児支援スタンダード 医学書院
母乳育児の文化と真実 メディカ出版
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