エビデンスとナラティブ

「科学的根拠、つまり エビデンス」に基づく医療が大切なことは当たり前なのですが、それだけでも実はうまくいかない可能性があります。それをもうひとつの側面「ナラティブベイスドメディスン 物語と対話に基づく医療」も大切にして二つを統合して、よりよい医療を目指すという流れがあります。
最近sariの周りで、苦痛があってお医者さんにかかった方がいました。検査をしても異常なしで「悪いところはない」と言われたけど「念のため」薬でも飲みますか、という流れになったそうです。つまりこの方は病気ではなかったのですが、苦痛を理解してくれないことに苦しみを感じたのだそうです。そのことを聞いて、過去に買った本を再読してみました。
母乳育児支援においては、悩みを訴えても「そんなのみんな通る道」とか「出過ぎるなんてうらやましい悩み」などと、なぐさめのようでかえって追いつめてしまうようなアドバイスをうけたという話をよく聞きます。そういう言葉は慎みたいものだと考えているのですが、それをうまく説明されているところがこの本の中にありました。「相手の不快な感情を刺激するコミュニケーション」を知っていれば、それを避けることができる、という説明です。前向きな言葉だけでコミュニケーションを語ろうとすると誤解を招いたり、難し過ぎると思われることきには、このようなよくありそうな言葉を反面教師にする説明は有効だと思います。
さて、この本では衝撃的な言葉で語られるそれは「ライバルを心身症にする方法」と書かれています。なかなかのユーモア具合です。6つのテクニック(?!)が紹介されています。
こういう言葉を避けることが大切です。

訴えの過小評価
突き放し
不安を煽る
悲観的な説明をする
生活の過剰な制限
実行不可能なアドバイス

「産後に胸が張って痛い」というお母さんへの対応は、上から順にこんな感じでしょうか。
()内は母の叫びを想像しました。
訴えの過小評価
これくらいなら大したことないわ。(がまんしなくちゃいけないってことなのね。私の我慢が足りないのかな)
突き放し
3日目でしょう。最初はみんなそうなんですよ。(これ以上なにも言えない・・・)
不安を煽る
あまりひどくなると乳腺炎で熱が出る人もいるんですよ(えー!怖い!)
悲観的な説明をする
痛いからと言って授乳せずにいると、おっぱいの出が悪くなると言われています。そうすると膿瘍といって膿がたまって切ってだなさくちゃならなくなる人もいるんですよ。(ますます怖い。そうなるのかな、どうしよう)
生活の過剰な制限
とにかく正しい姿勢でひんぱんに飲ませることが役に立ちますよ。そうねぇ、夜中も昼も必ずきっちり2時間に一度は飲ませたほうが早く楽になるようです。(夜中にタイマーかけてきっちり起きなくちゃなの?赤ちゃんが寝てても2時間?できるのかな?)
実行不可能なアドバイス
あまりくよくよしないで。ストレスも乳腺炎の原因っていいますからね。(痛いのに気にするなっていうの無理です!)
たしかに客観的にはそうなんです。エビデンスにもそこそこのっとっていること言ってます。でもそれでお母さんはどう思うのか、ですよね。
そこで、コミュニケーションスキルが役に立つのです。支援の基本となる知識です。今回ご紹介した本でもはっきりとは触れられていませんが、医師役の会話としてこのスキルを使った会話例が出てきます。
しっかりと学びたい方は、参考文献の2つ目以下、もしくはラ・レーチェ・リーグが開催しているコミュニケーション技術学習会がおすすめです。こちらの学習会は、支援する人向け(主に医療者向け)だけではなく、「子どもとの対話」というコースがあり、子どもとの会話をよりよくするために、例を使ってロールプレイで学びます。ラ・レーチェ・リーグのリーダー(母乳育児をテーマとした集まりを地域で月に一度開く方。お母さんのボランティア)はこの技術を身につけて認定されているそうです。
このブログにもコミュニケーションについていろいろと書き散らしておりますので、関心があればお読みいただけるとうれしいです。
赤ちゃん小

参考文献:
ナラエビ医療学講座 斎藤清二著 北大路書房
UNICEF/WHO 赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース「母乳育児のための10ヵ条」の実践:医学書院
母乳育児支援コミュニケーション術―お母さんも支援者も自信がつく 南山堂
ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術 宝島社

所感

Posted by sari