たばこが心配

「授乳しているのにたばこを吸っているお母さんがいるのよ、信じられない」というあるお母さんの批判的な言葉をききました。
sariはそれを聞いて、同じお母さんという立場なのに追い詰めるようなことを言うのは残念だなあと感じました。
人の価値観はそれぞれだし、そのたばこを吸っているお母さんだって事情があるでしょう。やめたいんだけどやめられないのかもしれないなあと思うと、辛いです。
批判をしたお母さんは、たばこを吸っている母乳を与えるくらいならミルクにすべきと思い込んでます。が!実はこれは間違った思い込みです。
Breastfeeding Answers made simple (Nancy Mohrbacher)に、536ぺージから訳して引用します

多くのたばこを吸っているお母さんは、母乳で育てるよりも人工乳で育てたほうが”安全”だと思っているが、その反対が真実です。

このあと、お母さんがたばこを吸いながら人工乳で育てると起こる赤ちゃんの健康リスクについての研究の引用が書かれています。さらに以下のようにも書かれています。

母乳育児は受動喫煙に関連するいくつかの赤ちゃんのネガティブな結果を相殺する可能性がある。

上記から考えてみると、お母さんが「たばこをやめられないまま母乳を与えない」よりも、
「受動喫煙に気をつけたり、たばこを減らしたり、やめる努力をしながら母乳育児をする」
のほうが赤ちゃんにとって有益ということになりそうです。
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母乳育児支援スタンダード第2版の337ページには、母乳を通して赤ちゃんが受けるニコチン量は、受動喫煙で赤ちゃんが受けるニコチン量の1% とあります。
意外な数字ではないですか?
突然きっぱりやめることもできないでしょうから、まずは受動喫煙を避けるためのアイデアが必要になりそうです。Breastfeeding Answers made simple には以下のアイデアがありました

  • 1日の本数を減らす
  • 授乳の後に吸う;ニコチンの半減期は95分なので、飲ませたすぐあとに吸えば、次の授乳までにニコチンが減ることが期待できます。でも、赤ちゃんがすぐにほしがったら、人工乳を与えるよりも母乳を与えたほうがよいと書いてあります(Myr, 2004 だそうです)
  • 外で吸うか、別の部屋で吸う

そのほか、The Womanly Art of Breastfeeding 8th ed.の428ページには、吸うとき専用の上着を着て吸って、赤ちゃんのところに行くときにはそれを脱ぐ、というアイデアもありました。
ちなみに、禁煙を助けるための薬についても調べました。
厚生労働省の禁煙支援マニュアル(第2版)に授乳中のニコチンパッチやガムは禁忌とあったのですが、どうも添付文書に禁投与とあるそうです(参考:ニコチネル添付文書 乳汁移行が報告されているとあります)
では薬でいつもおなじみのMedication and Mother’s Milkではどうかといいますと、L2(比較的安全)です。
母乳中のニコチンとその代謝物であるコチニンは、1日平均17本吸ったときと、1日21mgのパッチを使ったときに有意な差が見られないのだそうです。
とはいえ、たばこを吸っている親(父親も含む)が赤ちゃんと添い寝することはすすめられません。「Sweet Sleep」(La Leche League International)や「赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイドベーシックコース188ページ(Unicef/WHO)」など、多くの文献に記載されています。
母乳育児にはいわゆる”神話”とも言える、科学的根拠のない思い込みがたくさんあります(食べ物の話とかね)。
おのおのの考えは尊重すべきだとは思いますが、その考えの元を考えてみる必要がありそうです。
参考文献:
Breastfeeding Answers made simple (Nancy Mohrbacher)
The Womanly Art of Breastfeeding 8th ed. &Sweet Sleep La leche League International
母乳育児支援スタンダード第2版 (医学書院)
厚生労働省禁煙支援マニュアル(第2版)
Medication and Mother’s Milk Hale
赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイドベーシックコース Unicef/WHO

授乳中

Posted by sari